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宮崎駿監督の引退表明から一年たらず、ついに恐れていたことが現実となってしまいました。
日本の映画歴代興行収入1位の「千と千尋の神隠し」など数々のヒット作を世に送り出してきた「スタジオジブリ」(東京都小金井市)が、製作部門をいったん解体する方針であることが4日、分かった。(記事提供元:産経新聞)
スタジオジブリの鈴木敏夫ブロデューサーが、”映画製作部門を解体する”と公の場で発表したのです。これには、日本中に衝撃が走りました。宮崎アニメで幼少期を過ごした筆者としても、とても複雑な心境です。
さて今回は、日本アニメの第一人者 宮崎駿率いるスタジオジブリについて、探っていきたいと思います。
宮崎駿監督は、テレビアニメの「アルプスの少女ハイジ」「ルパン三世」「未来少年コナン」などを手掛けた後、1979年「ルパン三世 – カリオストロの城」で劇場用映画に進出します。1984年には「風の谷のナウシカ」を発表し、各界から高い評価を受けます。続く、1986年の「天空の城ラピュタ」、1988年の「となりのトトロ 」で名声を高めました。そして、ついに1989年「魔女の宅急便」で興行的にも大成功を収めます。そして1997年「もののけ姫」、2001年「千と千尋の神隠し」では、日本映画の興行成績記録を連続更新します。
ちなみに、数あるジブリ作品の中で筆者が一番好きな作品は、「天空の城ラピュタ 」です。ストーリーが単純かつ明快。そして、何より主人公の少年パズーが男らしくてかっこいい!忘れてならないのが、悪役ムスカ大佐の存在感。このムスカ抜きにラピュタは語れません。「見ろ、人がゴミのようだ」と言い放つ紳士的かつ卑劣な悪役に、”バルス”する爽快感は、他の映画ではなかなか味わえません。
一般的に、アニメーション・スタジオは、テレビアニメのシリーズを制作することで成り立っています。しかし、スタジオジブリの場合、2年に1本程度の劇場用アニメを制作するだけです。それを可能としているのが、平均興行成績107億円という脅威の観客動員力であり、宮崎駿監督の人気と高い信頼です。
スタジオジブリは、そもそも宮崎駿・高畑勲両監督の劇場用アニメーション映画を制作するためのスタジオとして、スタートしました。ちなみに「ジブリ」とは”サハラ砂漠に吹く熱風”のことで、「日本のアニメーション界に旋風を巻き起こそう」という意図が込められています。
両監督が言う旋風とは、”リアルでハイクオリティなアニメーション作り”、つまり、人間の心理描写に深く入り込み、豊かな表現力で人生の喜びや悲しみを、ありのままに描き出すことを意味します。そのために、予算とスケジュールがかけられる映画というメディアに絞って展開し、妥協のないクオリティを、監督中心主義で作っていくという極めて困難な道を選択したのです。だからこそ、ピクサーやドリームワークスといったアメリカのアニメーション・スタジオと互角に戦ってこれたのです。
スタジオジブリの場合、監督にすべての権限が集約する形をとっていますが、ピクサーの場合、テーマ設定、シナリオ、デザイン、作画…と細かく分業体制がとられています。言葉は悪いかもしれませんが、ベルトコンベアーに乗せて、システマチックな映画作りをしていると言えます。ヒットを連発しているのは、パターン化されたシナリオが、非常に高いレベルで作られている証です。
また、ピクサーの作品は、ジョン・ラセター監督というイメージが強いかもしれませんが、3~4人の共同監督である場合も増えています。ピクサーのキャラクター”ルクソーJr”とは反して、意識的にスポットライトが監督に当たらないにしています。一人の監督のファンにするのではなく、ピクサーブランドにファンがつくような仕組みを構築しているのです。だから、誰が監督になろうと、お客さまは劇場に足を運ぶのです。このような状態を作り出しておきながら、次世代を担う監督をゆっくりと育成するという流れができているようです。
一方のスタジオジブリは、宮崎駿や高畑勲といった巨匠を中心に映画制作を行なっています。ある一定のヒットは約束されるかもしれませんが、後継者はなかなか育ちにくい環境です。事実、宮崎駿のご子息である宮崎吾郎監督がテレビで、「父親からは何も教えてもらっていない」と愚痴をこぼしている姿を見たことがあります。スタジオジブリの強みは、宮崎駿という品質とヒットが保証できる稀にみる作家を抱えていることであり、弱みは、宮崎駿しか頼る者がいないということがわかります。宮崎駿監督が引退を宣言した今、制作部門を解体するのは必然だったのかもしれません。
ビジネスモデルを見てみると、ジブリもピクサーも、共に劇場公開収入だけではなく、DVDやグッズ販売で儲ける仕組みとなっています。劇場公開時に制作資金を回収してしまい、その後のDVD販売などで利益を上げるという流れです。ジブリも、「千と千尋の神隠し」までは、劇場収入プラスDVD販売という仕組みが機能していました。しかし、成績が振るわないとなると、年間20億円という人件費をDVDの販売で巻き返さなければなりません。そうなってくると、これはかなり至難の業となります。人件費という固定費を抱え込む体制からの脱却というのが、今回の制作部門解体の真の目的です。
鈴木プロデューサーは、ジブリがここまで続くとは、誰も考えていなかったと言います。「一本成功したら次をやる。失敗したらそれで終わり。」元々、このような考え方からスタートした会社だったからです。宮崎駿監督も、引き際に関する美学を問われ、「映画を作るのに死に物狂いで、その後どうするかは考えていませんでした。それよりも映画はできるのか?これは映画になるのか?作るに値するものなのか?ということの方が自分にとって重圧でした。」と語っており、後継者を育成するという意識は、皆無に等しかったと言えます。
https://www.youtube.com/watch?v=b9XPIloqk50
現在、上映中の「思い出のマーニー」の米林監督(通称マロ)は、細かな心理描写と豊かな表現力という意味においては、スタジオジブリの正統なる後継者と言っても過言ではありません。しかし、米林監督以外に目ぼしい人は見当たらず、筆者としては、監督を育成するのが少し遅すぎたという印象が拭いきれません。
新規参入と事業撤退。どちらも、リスクを伴う重要な意志決定です。スタジオ・ジブリは、そのスタート地点にて、通常の企業が取りづらい決断を下し、社会に価値を提供し続けてきました。会社の成り立ちを考えると、今回の一時撤退は必然と考えるのが自然かもしれません。方向性が定まらないまま、ダラダラと続けるのが一番良くありません。
経営者にとって、参入戦よりも撤退戦のほが難しい決断を迫られます。「このまま頑張って何とかする」という方を無意識に選んでしまうからです。これを”サンクコスト(埋没利益)の呪縛”と言います。これまでつぎ込んできた投資額や、積み上げてきた顧客との関係性、関わっている社員のモチベーションを考えると、冷静な判断を下すことができなくなるのが一般的です。だから、「新規参入時に撤退イメージを明確にしておく」ことが求められるのです。そういう意味においては、鈴木プロデューサーの制作部門解体という決断は立派ですし、「思い出のマーニー」を公開中の米林監督に配慮したタイミングも絶妙だったと思います。
宮﨑駿監督という名監督にして名脚本家が引退を表明した今、スタジオジブリが「どうあるべきか」という使命をゆっくりと考える時間が必要です。「風立ちぬ 」ではありませんが、会社は一度動き出したら、その使命をまっとうするまで、生きねばなりません。みんなスタジオジブリが大好きです。今回の決断が、未来の子どもたちにとって、最良の選択なるよう、大いなる期待をもって次回作を待ちたいと思います。
次は、「KADOKAWAとドワンゴの経営統合~これから始まる新しい物語に期待~」をご覧下さいませ(๑˃̵ᴗ˂̵)و テヘペロ
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